TAKIGAHARA HOUSEは、石川県小松市の、人口わずか170人の滝ヶ原町にある、築80年の元石蔵を改装した家だ。まわりに家が何軒かあるほかは、青々とした田んぼと畑、なだらかな山々といった、のどかな田舎の風景が広がっている。

厚さが20センチほどもありそうな、蔵特有のどっしりとした鉄製のドアを開けると、向かいの壁に細長く空いた窓から見える絵画のような田園風景が見え、手前に置かれた、大きな丸いテーブルや、革製の長いソファ、供えてある食器は、インテリア雑誌みたいにデザイン性が高い。

ゲストが来ると、「こんにちは~!」と満面の笑みで大きく手を振ってくれるホストの小川諒(りょう)さんは、東京の原宿あたりからそのまま引き抜いて来たような青年だ。白銀の長髪に、虫の目のような大きなメガネ、くたっとなるまで着込んだスタイリッシュなTシャツ姿(次の日の朝は、ホットピンクのタンクトップだった)で、田舎道をさっそうとスケートボードで滑ったりしている。

諒さんが住むのは、TAKIGAHARA HOUSEの隣にある、築130年の古民家。玄関を入ってすぐの大きな土間に、これまた大きなステレオがデンッと置かれ、どこの国の言葉かわからないおしゃれな音楽が流れていた。土間から一段上がると大きなダイニングテーブルがあり、「今日の夕飯は餃子だよー」と、中国出身のコウちゃんに教えてもらいながら、せっせと夕飯の餃子作りをする日本人のスタッフに混じって、イスラエル、スイス、ノルウェーから畑仕事などを手伝いに来た若者たちが手伝ったり、のんびりくつろいでいる。

しかし、一歩外に出れば、玉ねぎがいくつも吊るされた軒先でくつろぐ、農作業着姿の年配のご近所さんから、「諒くん、トマトはもう植えたの?」と声がかかり、「まだだよ。来週あたり植えようかと思っとる」「そう。早い方がいいよ。また言ってね」「ありがとうね」こんな会話が、自然に交わされている。

「東京に住んだこともあるし、それはそれで楽しかったけど、ずっと住むならもっと自然に近い場所が良いなっていつも思ってた」

そう語る諒さんが、滝ヶ原に引っ越してきたのは3年前。バックパッカーとして世界中を旅して日本に戻ってきた直後だった。金なし、家なし、仕事なしで、これからどうしようか悩んでいる時に、今住んでいる古民家のオーナーが、「住んでみないか?」と誘ってくれたのだ。そして、二つ返事でオーケーすると、流れに身をまかせるように滝ヶ原にやってきた。

最初はやることもなく、知り合いもいない日々が続き、「家やお金があっても、友達がいないと生きていけないって痛感しましたね。最初の2週間くらいは、さみしくて、一緒に連れてきた猫のブランカにずっと話しかけていました」と、当時を振り返る。

それでも、近所の人たちは、突然越してきた諒さんを心配して、「大丈夫か?」と様子を見にきたり、採れた野菜を持ってきてくれたりした。見よう見まねで畑作りをし始めると、今度は、「そうじゃない、こうするんだよ」と、教えてくれる。こうして支えられながら、ちゃんと「こんにちは」「ありがとう」「すみません」のあいさつを続けるうちに、近所の人たちと少しずつつながりが増えて行った。

滝ヶ原に来て半年ほど経ったころ、TAKIGAHARA FESTIVAL開催の話が持ち上がった。滝ヶ原産の野菜を主役に、東京からシェフやDJがかけつけ、地元の人たちにも声をかけて参加してもらった。開催までドタバタだったものの、「空き家だった場所で、こんなに楽しい時間が過ごせて嬉しい」、「こんな風に料理すると、いつもの野菜じゃないみたい」と、近所の人たちが楽しむ様子を見て、「自分から貢献できることもある」と嬉しくなった。

同じころ、諒さんのことを新聞で知ったというブルーベリー農家の野口さんが、「ブルーベリーを植えてみなよ」と訪ねて来てくれた。指導されるままに土を掘り起こし、汗だくになって苗を植え終わった後、ブルーベリーが食べられるまでに3年もかかることを知った。がっかりしたのも束の間、「だったら、3年間はここで頑張ってみよう」と、将来を考えるきっかけになった。

細々と作っていた野菜も、「1年かけて土作りからやって育てたネギを初めて食べた時は、何にも変えがたいほど美味しくて、次は何を植えよう、人にも食べてもらいたい」と思ううちに、畑もおおきくなっていった。そして、滝ヶ原の人たちが、当たり前のように自分たちで食べる野菜を育てていた理由がようやくわかった気がした。

滝ヶ原に来て2年目には、空き家だった建物にカフェをオープンし、3年目となる2018年7月に、築80年の石蔵をTAKIGAHARA HOUSEに改装すると、国内外から滝ヶ原を訪れる旅行者も徐々に増えてきた。

これまで高齢化と過疎化に頭を悩ませていた町の人たちも、少しずつ慣れ、散歩に行ったゲストが野菜をもらって帰って来たり、「向かいのおっちゃんは、英語を勉強し始めて、海外から来たゲストに英語で話しかけたり」して、楽しんでくれるようにもなった。

東京にいる時より屋外で過ごす時間が増え、どこからともなくご近所さんと何気ない会話が始まる。「畑をちょっと手伝って」とお願いされれば手伝いに行き、「みんなで飲みませんか」と誘えば人が集まってくる滝ヶ原。諒さんはここを、訪れる人が自分たちの理想に想いを馳せ、実現できる「ユートピア」にしたいと言う。

「自分が好きなものってどこにいても変わらないし、ここなら情報に流されずに好きなことに集中できる。それに、田舎は都会にも負けないくらい、かっこいいんですよ。小さな虫でも、白に赤!?みたいな色の組み合わせとか、バラのピンク色がすっごくかわいい、とかすごく新鮮で」

だからこそ、都会に住むクリエイティブな人たちをもっと呼んで、フュージョンもしたいし、ここにしかないかっこよさも見つけてほしい。そんな思いから毎年開催しているTAKIGAHARA FESTIVALでは、今年、崖の中腹に大きく空いた洞窟のような石切場で、DJやミュージシャンたちがパフォーマンスする予定だ。もちろん、町の人たちも楽しみにしてくれている。

身ひとつで滝ヶ原にやってきてから3年。人口170人の町で、家族ができ、コミュニティができた。「これまで、世界を旅していく先々でよくしてもらったから、僕も同じようにゲストを迎え入れたい」と語ってくれた諒さん。そして、ゲストを迎え入れるのがTAKIGAHARA HOUSEにとどまらず、クールで、田舎で、そしてなにより暖かい、滝ヶ原町の小川諒コミュニティだからこそ、きっとこの町を何度でも訪れたくなるのだろう。

Airbnbホストになる

文章:太田瑞穂


Airbnbブログで紹介する宿泊先と体験は、あくまで参考イメージの提供のみを目的とするものです。Airbnbプラットフォーム上の特定の宿泊先や体験を支持・推薦するものではありません。